Brilliant Harmony

​第31回定期演奏会 ~メロディーは、愛Ⅳ~

Webパンフレット

​Program

1st

Stage

Ich wollt' meine Lieb’ ergösse sich      

Herbstlied     /Felix Mendelssohn Bartholdy

Madrigal  / Gabriel Fauré  arr.Ko Matsushita

Ave Maria /  Francis Poulenc

Tota pulchra es  / Maurice Duruflé

Hymnus  / György Orbán

Cantate Domino / Josu Elberdin

Ave Maria     / Javier Fajardo

A flower remembered   / John Rutter

2nd​

Stage

Veni Creator Spiritus / 松下 耕

夢見草   / 信長貴富

みぞれ   / 野田暉行

 

【公募ステージ】

みやこわすれ /千原英喜

マルメロ  / 三善 晃

静かな雨の夜に   / 松下 耕

島唄  /作詩.作曲:宮沢和史(THE BOOM)

編曲:松下 耕 -編曲委嘱初演-

1st Stage

 
 

『6つの二重唱曲』より

1.Ich wollt’ meine Lieb’ ergösse sich(わが願いはこの愛すべてを)

4.Herbstlied(秋の歌)

Felix Mendelssohn (1809~1847)

 ドイツの作曲家、メンデルスゾーンはベルリンの裕福なユダヤ系銀行家の家庭で生まれ育った。その豊かな環境を反映して、均整のとれた形式と典雅な旋律による端正な作風をもつ。当時、一般には知られていなかったJ.S.バッハの『マタイ受難曲』を指揮し、バッハの宗教音楽の復興の道を拓いたことでも有名である。

彼が二重唱曲の作曲を始めたのは、1836年、妻のセシルと知り合った直後である。彼女には1つ違いの姉がいて、姉妹のために二重唱曲を書きたいと考え始めたようだ。

「わが願いはこの愛すべてを」は、ハインリヒ・ハイネ(1797~1856)の詩を改変し、原詩の「苦痛」を「愛」に変更し、全体の内容は、愛の苦悩から愛の憧れと大きく変えられ、抒情的な恋愛歌となっている。

「秋の歌」は当初、ピアノ独奏用に作曲されたが、出版のために二重唱に編曲されたと言われている。詩は、メンデルスゾーンの友人で、外交官としてロンドンに駐在していたカール・クリンゲンマン(1798~1862)による。激しく情熱的な旋律が大変魅力的な作品である。

 

Madrigal

Gabriel Fauré(1845~1924) 

arr.Ko Matsushita

 フォーレは近代フランスを代表する作曲家、オルガニストである。教会音楽家を育成するパリの学校で学び、とりわけグレゴリオ聖歌についての研究は、後にフォーレの音楽に格別の影響を与えた。

 この曲は混声4部合唱(または4重唱)のために書かれた。グレゴリオ聖歌ミサの旋律が、主要主題を形作っている。詩はフランスの作家、アルマン・シルヴェストルによる世俗詩で、聖歌の旋律に世俗の歌詞をのせることは、中世のパロディ・ミサなどにもみられる手法である。本日は松下耕編曲により女声4部合唱で演奏する。

 

オペラ『カルメル会修道女の対話』より

Ave Maria

Francis Poulenc (1899~1963)

 プーランクは、フランス・パリの裕福な家庭に生まれる。型にとらわれない、洗練された独自の音楽は、近代フランス音楽に大きな影響を与えた。

 『カルメル会修道女の対話』はフランス革命前後のコンピエーニュのカルメル会修道女の処刑を題材とするオペラである。1956年にミラノ・スカラ座で初演され成功をおさめた。稀にみる完全に宗教的なオペラであり、基本的には女声合唱のために書かれている。Ave Mariaは女声三部合唱とピアノ、またはオルガンを伴い、第二幕第二場で歌われる。絹糸のようなしなやかで美しい旋律と神秘的な響きを持った魅力的な作品である。

 

Tota pulchra es(すべてが美しいお方)

Maurice Duruflé(1902~1986)

 フランスのノルマンディー地方に生まれたデュルフレは、傑出したオルガン奏者として活躍し、プーランクのオルガン協奏曲などの初演をつとめ、多くの録音も残している。多忙な演奏活動と交通事故の後遺症により作曲活動が制約され、出版作品はわずか14曲のみ。多くの作品にグレゴリオ聖歌を引用した。

この曲は『グレゴリオ聖歌による4つのモテット』の第2曲にあたり、この作品のみ女声合唱曲となっている。拍子の変化により言葉のリズムを生かした手法と、流麗な音の動きが非常に魅力的な、女声合唱の珠玉の名作である。

 

HYMNUS (クリスマスの賛歌)

György Orbán(1947-)

 オルバーンは、ルーマニアのトランシルヴァニアに生まれた現代ハンガリーを代表する作曲家である。2014年にハンガリーの音楽界で最も権威ある「リスト賞」を受賞。作品はオラトリオや合唱曲が多数を占め、オペラ、交響曲、吹奏楽曲、室内楽など幅広い。

 この曲はイエスキリストの生誕を祝う賛歌で、冒頭のピアノが紡ぐ旋律はオルバーンならではの慈愛に満ちている。そのメロディーは作品全体を包み込み、終盤に合唱で歌われるオクターブの旋律は非常に繊細で美しく、思わずため息が出るほどである。

 

Cantate Domino  (Kanta Jaunari Kantu Berria) 主に向かいて歌え

Josu Elberdin(1976-)

 エルベルディンはスペイン・バスク地方の作曲家である。音楽学校で教鞭をとりながら、オルガニストとしても活躍している。

 この曲は、冒頭部分には英語、本編にはバスク語とラテン語のテキストが使われている。8分の6拍子で歌われるバスク語の旋律は一度聴いたら思わず口ずさみたくなる印象的なメロディーで、神への賛美が生き生きと表現されている。近年国際コンクールでもよく歌われている、大変人気のある作品である。

 

Ave Maria

Javier Fajardo(1992-)

 ファハルドは、スペイン・バスク地方出身の若手作曲家である。

この曲は女声4部合唱とピアノによる作品で、副題に『A mi madre』(私の母へ)と記されている。ピアノの前奏は優しさに満ちており、心地よく揺れるような三拍子に導かれ、作曲者の母への愛情が込められた旋律がユニゾンで歌われる。温かく時に力強いハーモニーは女声合唱ならではの包容力があり、最後は繊細に静かにAmenが繰り返される。

 

A flower remembered (永遠の花)

John Rutter(1945-)

 ラターは現代イギリスを代表する作曲家、合唱指揮者である。宗教音楽を中心に多くの合唱曲を手掛け、美しく親しみやすい旋律は世界中で愛され歌われている。
この曲は東日本大震災の被災者のために書き下ろされた作品である。ラター自身が俳句のスタイルを意識して書いた詩には、この震災で遠くに去ってしまった人たちを「美しい花」にたとえ、「私たちはいつまでも忘れないよ。」という強いメッセージが込められている。ヘルビック貴子による日本語の詩は、ラターの詩に込めた想いを大事にしながら、曲にあった歌いやすい言葉で書かれている。メロディー作りの鬼才であるラターらしい、美しく口ずさみたくなる旋律と豊かなハーモニーをお楽しみ頂きたい。

 

2nd Stage

Veni Creator Spiritus(来たれ、創造主なる聖霊よ)

松下 耕(1962-)

 この曲は2014年に横須賀芸術劇場少年少女合唱団により委嘱初演された女声(同声)4部合唱の作品である。作曲者が最も好きな聖歌の一つであるグレゴリオ聖歌の旋律をもとにして書かれており、優しく温かいメロディーは曲が進むにつれて変容していく。冒頭の海の凪のような澄んだピアノの音色は大変美しく、全編にわたりピアノと合唱は協奏する。女声合唱ならではの響きを堪能して頂ける作品である。

 

二部合唱曲集『いのちの寓話』より
夢見草

信長 貴富(1971-)

 信長貴富は大変人気のある現代作曲家である。上智大学を卒業後、公務員を経て作曲家として独立した。作曲は独学で、自身も合唱活動の経験があり、作品の多くは合唱曲であるが、歌曲や器楽曲も精力的に手掛けている。
詩は、バリトン歌手で合唱指揮や翻訳家など多彩な活動をしている宮本益光による書下ろしである。『いのちの寓話』は6曲からなる組曲で、この曲は最終曲である。「夢見草」とは桜の別称。儚くも散っていく桜の花びらの美しさが流麗な詩で紡がれ、E-durの艶やかで流れるようなピアノと合唱により色彩豊かに描かれた作品である。

 

みぞれ

野田 暉行(1940-)

 野田暉行は国内外で高く評価されている現代作曲家であり、東京藝術大学で新実徳英や西村朗など多くの著名な作曲家を育て、自身も数々の賞を受賞している。
 この曲は、1983年の第50回NHK全国学校音楽コンクール高等学校の部の課題曲として作曲された。作曲者は合唱曲のほかにも、管弦楽曲、室内楽曲、能などを作曲している。
 雨にも雪にもなれないみぞれの「中途半端な悲しみ」をあらわすように、曲の前半は調が安定しない。中盤では、自分は一体何者なのか、必死に探す様が激しい曲調で語られるが、終盤ではみぞれはついに雪に変わり、B durの堂々とした響きの中で曲が閉じられる。

【公募ステージ】

 

女声合唱とピアノのための組曲『みやこわすれ』より
みやこわすれ

 

千原 英喜(1957-)

 千原英喜は東京芸術大学作曲科卒業後、同大学院修士課程を修了。師である間宮芳生に影響を受け、日本の伝統音楽や古典を題材とした作品が多い。土俗性を浄化させ、日本の雅楽などと西洋のルネサンス音楽を結び付けた作品が特徴である。
詩は、児童文学者でもある野呂昶による。「みやこわすれ」はミヤマヨメナの園芸品種で、その名は鎌倉時代に島流しになった貴人が「この花を眺めていると都のことを忘れられる」と語ったことに由来する。過去に思いをはせるその切なさがストレートに表現された、人間味あふれる作品である。

 

女声合唱曲集『街路灯』より
マルメロ

三善 晃(1933-2013)

 三善晃は言わずと知れた日本を代表する作曲家の一人である。フランス留学から帰国し大学を卒業した頃から次々と大作を発表し、日本の音楽界に大きな影響を与え続けた。
 『街路灯』は1982年に音楽之友社の「教育音楽」誌に連載という形で発表された。優しさの中に夥しい血が流れているような北岡淳子の詩に惹かれ、五曲からなる組曲を作曲、本日はその第一曲目を演奏する。「マルメロ」とは、西洋カリンとも呼ばれる果実のこと。三善晃ならではの色彩豊かで繊細な旋律は、感情の高まりと共に表情を変え力強いクライマックスをむかえる。高い技巧を必要とするピアノパートにもご注目頂きたい。

 

女声合唱とピアノのための組曲『静かな雨の夜に』より
静かな雨の夜に

松下 耕(1962-)

 この作品は全五曲からなり、第1曲「夢」、第2曲「かつてもっていた」、第3曲「十八歳」、第4曲「天の断片」そして最終曲が「静かな雨の夜に」である。テキストは全て谷川俊太郎氏の若かりし頃の作品で、衒いのない詩人の素直な心情が美しく散りばめられている。第1曲から第4曲までは、自分の卑小さをシニカルに捉えた厳しい内容になっているが、最終曲だけは「そして なによりも/限りなく自分を愛しながら」に見られるように、自己肯定が初めて現れる。静かに絶え間なく降り続ける雨を表現したピアノと、静かに語るように歌われる合唱が大変美しい作品である。

 

島唄

宮本 和史(1966-) 編曲:松下 耕

 THE BOOMにより、1992年に発表された、言わずと知れた日本のポップス史を飾る大ヒット曲である。
 沖縄地上戦の悲劇と、平和への希求が歌われたこの曲は、これまでにも少なからず合唱曲へ編曲されてきた。さまざまなアプローチが見受けられるが、私は、今回の編曲では、戦争の悲劇を必要以上にドラマ化し、誇張する表現はしたくなかった。
 沖縄のさとうきび畑は、今日も、静かに風が吹き、何事もなかったかのようにうららかな日差しが照っていることだろう。その、日常の風景のなかで、歴史を振り返り、ハッとする瞬間がある、その程度でいいのだと思っている。言い換えれば、この曲を歌うことにより、悲劇を回顧するのではなく、私たちは日常、ずっと、私たちが行った愚行を悔い、真に豊かで幸せな未来を築いていこうと誓わなければならないはずだ。
 また、この曲の原曲は、一見、男女の別れを歌ったラブソングの形をとっていることを、編曲者はリスペクトしなければならない。沖縄の人々にとって、いや、世界の人々にとって、反戦の願いと祈りは普遍であり、『沖縄戦』だけのものではないのだ。つまり、『Kyrie』や『Agnus Dei』は、その祈りも内包しているのだから、声高に沖縄戦の悲劇を(体験もしていないくせに!)徒にドラマチックに構成することは憚られる、と思ったのである。
 以上のようなことを思い、沖縄に最大の思いを寄せて書いた編曲が、本日のものである。お聴きいただけることに感謝しながら、公募メンバーの皆さんとともに、心を込めて演奏したいと思う。

松下 耕